ドレスデンからの便り  by 北場 真澄 2007.03.21

メールをありがとうございました。その後、お元気でいらっしゃいますか?
去年の1月以降、猛烈に忙しくなってしまい、すっかりご無沙汰してしまって申し訳ありま
せん。今はドレスデンにいるのですが、色々と環境や言葉が変わって、なかなか精神的
にも時間的にも余裕がなくてご連絡できませんでした。

私の方は、昨年、無事にプラハの院を卒業しました。
卒論が思っていた以上に大変で、卒業演奏会も同じ時期にあったし、本気で過労死する
んじゃないかと思いましたが(笑)、奇跡的になんとか書き上げることができて、卒演の
方も一番良い成績をもらうことができました。どうなることかと思っていましたが、なんとか
なるものですね!

その後8月にドレスデンに引っ越して、今はここの大学院でペーター・レーゼル先生と勉強
しています。
先生は本当に素晴らしいピアニストで、何の曲を持って行っても全部良く知っていらっしゃ
るし完璧に弾ける!レッスンも素晴らしくて、毎回得ることが一杯です。音楽的にも人間的
にも心から尊敬できる先生と勉強できるって本当に幸せなことだなあ、と思います。
先生はモスクワで勉強した方なので、プロコフィエフの ソナタを持っていった時は、「この
曲についてリヒテルと話したことがあるんだけど」と言って、(リヒテルはプロコフィエフと親し
かったから)「楽譜にはそう書いていないけど、プロコフィエフ自身はこう考えていた、って
リヒテルが言ってたよ。」とか教えてくださったりして、すごいなー、って思います。
音楽のテンポの運び方とか、細かいアーティキュレーションの仕方やアゴーギグの使い方、
音やタッチの質、微妙なディナーミックの使い方etc.それまではそこまで厳密に考えていな
かったようなことにもすごく細かくて、それに完成度の高い演奏をする、ということについて
すごく意識が変わりました。
ただ、レッスンのペースはかなり早くてどんどん新しい曲を持って行かなければならないし
、それにもかかわらず常に音楽的にも技術的にも100%の完成度で弾けることを当たり前
に要求されるので結構ハードです・・・。

でも、おかげでひとつの曲をある一定の完成度で弾けるようになるまでの時間が早くなっ
たらしく、この間、メシアンの室内楽(「世の終わりのための四重奏曲」)を急に弾くことにな
った時も、楽譜をもらって一週間後の合わせ(リハーサル)だったら結構余裕って感じでし
た。音を読むだけではなくて、音楽的な内容を理解すること(曲のアナリーゼをしたり、作曲
された背景やメシアンの語法について勉強したり)、それを演奏として表現する、ということ
を初めの段階から同時に考えてこなせるようになってきた気がします。

前ならもっと時間をかけてやっていたことを今はもっと短い期間でこなさなければならない
し、自分自身の演奏に対する要求度も当然どんどん高くなるので、本当に真面目にさらわ
ないと間に合いません。ピアノの前で練習する以外に曲について勉強するための時間も必
要で、しかもそういった演奏するための勉強ってきりがないのでいくらでもやるべき事があ
るし、そしてドイツ語の勉強もあるし・・・、結構毎日一杯一杯です。
そういう訳で、森脇さんのHPにお便りを書くお約束をしていたのですが、今のところちょっ
と余裕がなさそうなのです・・・。本当に本当に申し訳ありません。

プラハには今でも時々行きます。
私はたまにプラハシックにかかるので(笑)、そういう時は必ずドヴォルジャークのシンフォ
ニーを聴くのですが、よくチェコ人が”チェコ人にとって音楽はただ音楽なのではない”とか”
ドヴォルジャークにはチェコ人としての自分達の血を感じる”って言うのが、最近すごく良く
分かります。彼の音楽には本当にチェコ人やチェコの自然の全てがあるんです。
ドイツとチェコはこんなに近いのに、民族性、とくにメンタリティーは全然違っていて、ドイツ
人はアグレッシブなところがあるので、時々疲れます・・・。
プラハは本当に美しいし、私にとってはやっぱり特別な街です。
先生や友達にも恵まれていたし、本当に暖かい人達に囲まれていたんだなあ、って思いま
す。プラハの先生たちは”いつも扉はあなたのために開いているから、いつでも会いに来て
いいし、いつでも弾きにおいで。”って言ってくださっているので、本当にそうしています。(笑)
ドレスデンで落ち込むことがあっても、プラハに行って先生や友達に会うと、不思議と元気
になれるし、また頑張ろう、って前向きな気持ちになれます。
(しかも、ドイツの学校でもらえる定期とチェコ内の割引カードを使うと、プラハまで往復で
1000円ちょっとなのです!)

こちらも、少しずつ春らしくなってきました。
季節の変わり目、体調を崩したりされませんように、お体にはお気を付けくださいね。
それでは、また!