昨日、ピアノ教師宅の仕事が終わってコーヒーをご馳走になりながら、コンサートにおける
演奏時のハイヒールの話になりました。
「ハイヒールって、ペダルを踏むのには不向きではありませんか?」
「メッチャ不向きですよ!自分の家では素足かせいぜいがスリッパを履いている状態でペ
ダルを踏みますから、やや、つま先を上げて下におろすという自然な運動をするのに比べ
て、ハイヒールを履いた状態だったら、足のかかとよりもつま先の方が下に位置するとい
う傾いている状態の中でなおかつ、つま先をもっと下げ下ろさなければならないという無
理な足首の動きを強いられるのですよ。しかもコンサートホールのピアノは脚のキャスタ
ーの下にインシュレーターを敷いていませんから余計ペダルの位置が低いのです。しまい
には足が引きつりそうになります」
「へー!大変なんですねぇ。女流ピアニストはハンディを背負っておられるのだ」
「いえ、必ずしもそうではないと思います。両手を思いっきり交差して広範囲の鍵盤を弾く
とき、燕尾服だったらさぞかし窮屈なことだろうと思いますよ。それに、ステージの上ってス
ポットライトを初め様々な照明に照らされ、冬でも結構暑いのです。男性は首周りをネクタ
イで括られて閉じられているため、体温の熱気が逃げるところがありませんから、もう蒸し
風呂状態だと思います。モーツアルトのコンチェルトやソナタの緩徐楽章でも額に汗して
いることが多いではありませんか。その点女性は、時には裸状態と言ってもいいくらい、
肩の部分は解放されておりますから、随分楽なものです」
「な〜るほど。しかしそれだったらハイヒールをやめてローヒールの靴にすれば、すべての
面で女性が有利ですね」
「不適切なことを認めながらも、ほとんどのピアニストがハイヒールを履きます」
「何故ですか?ロングドレスだったらスカートの中に隠れて靴なんて見えもしないでしょうに
」(映画「ローマの休日」のあるシーンを私は思い出しました)
「演奏家と言えども舞台では見た目も至極大切にするのですよ。少しでも背が高く、スマー
トに見せるためにも皆さん、苦労を承知でハイヒールを選ぶのです」
「そういったものなのですか。なるほど・・・」(背を高く見せようと常にハイヒールを履いてい
たという、フランス王ルイ14世のことを思い出す私でした)