ある少女の夢がかなった日  8/18 2003掲載   リワキーノ

 
 
M・京子さんは私の顧客のピアノ教師であり、14年前からのお付き合いです。
言葉遣いも物腰もたいへん丁寧な、いわゆる古風な淑女といった雰囲気を持たれたご婦人
です。
仕事上のお付き合いが始まって数年したころに私たちの身の回りで起きたある不幸な事件
が私をしてこのピアノ教師に対する深い尊敬の念を抱かせることになりました。その事件に
ついてはここで語ることはできないのですが、私はその事態に対するM・京子さんの対応が
たいへんモラルの高いものに思われ、以後、私はこのピアノ教師を名実ともに淑女の名に値
するご婦人と思っているのです。
 
今から8年前、M・京子さんの卒業された音楽大学の仲間たちで結成された合唱団の演奏
会に招かれ、家族4人で行きましたところ、その合唱団の素晴らしい歌唱力、歌われた日本
の歌曲の編曲のユニークさと美しさに私たち夫婦は魅了されました。
そのときの強い印象がそれから5年後に同合唱団でミニ・ミュージカルをやるとお聞きしたと
き、是非見たい、と今度は私たち夫婦だけで出かけていきました。
そしてそれがあまりにも素晴らしかったので、その合唱団が’新オペラ座’というミュージカル
団体を結成した後、立て続けに家内そして娘も誘って観に行ったものでした。
その一部始終は私のM・京子さんに出した手紙を参照していただければ幸甚です。
 
そしてM・京子さんも私もお互いミュージカルが大好き、ということを知っているのに、なぜか
私の友の息子で今、新星のごとくきらびやかにミュージカルの世界にデビューしていった井
上芳雄君の話を私はしていなかったのです。
それが今年の3月、M・京子さんの家に調律に行ったおりにミュージカルの話になったとき、
私が芳雄さんの父親と高校時代の友人であることを話したところ、たいへんなセンセーション
を巻き起こしたのです。
M・京子さんのお嬢さんで将来ミュージカルダンサーを夢見るユリナさんが大の芳雄さんファ
ンであり、芳雄さんの出演した舞台劇はすべて観てき、そのCDもすべて購入して常に聴いて
いるとか。ユリナさんは高校1年生です。
 
「ええーっ!森脇さんのお友達の息子さんですって!?」
私の脳漿の中ではおしとやかなイメージで固定化されていたピアノ教師がそれまでに見せた
ことの無いほどの素っ頓狂な声を上げて驚かれたのです。
シアター・ドラマシティーにおける「エリザベート」と「モーツアルト」のどちらの公演のときにも
楽屋裏を訪ねたことを話すと、信じがたいような表情をされ「まあ、生の芳雄さんに会われた
のですか?娘が聞いたらどんなにうらやましがることでしょう!」と言われます。
舞台で芳雄さんの演技を見るときも生の姿だと私は思うのですが、ファン心理としては身近
で見てこそ、生と言えるのでしょうね。
芳雄さんの直に接したときのたいへん好ましい好青年ぶりを語ると、M・京子さんは「私たち
が確信していたとおりのお人柄なのですね。舞台を観ていても、終わったときの芳雄さんの
対応を見ていても私たち親子は絶対に芳雄さんは性格も素晴らしい人に違いない、と思って
ました」と語られます。
「ああ、娘が帰ってきて森脇さんの話を聞いたらどんなに切ない思いになることでしょう」とい
うM・京子さんの言葉に私は何故、このことを2年前に話さなかったのか、と後悔にくれる思
いでした。
井上芳雄さんは「モーツアルト」の主役を演じて以来、人気がうなぎのぼりとなっており、私の
接することのできる領域からははるか遠くに去って行ってしまっており、M・京子さんのお嬢さ
んを芳雄さんに引き合わせるチャンスはひどく薄くなっていることを実感するからです。
そして話題は芳雄さんが7月に出演する新作「シンデレラ」に及んだとき、お嬢さんのユリナさ
んは井上芳雄ファンクラブに入っているため、優先的にチケットを確保できるということをお
聞きし、私は私の分も確保してもらうことをお願いしたのでした。
そしてその日の夜、ユリナさんからメールを頂戴したのです。
 
03.03.04
こんばんは★M・京子の娘です。
今日は調律していただき有難うございました。
おかげ様でとてもいい音になりました。
母から井上芳雄さんの話を聞いて、大ファンなのでとてもビックリしました。
ホームページなど教えていただけるそうで。よろしくお願いします☆
 
ホームページとは三王システムのHPのことであることは言うまでもありません。
その開け方、使い方を説明したメールを送ると下記のメールが来ました。
 
03.03.06
ご丁寧なメールありがとうございました!
とてもわかりやすかったです。
さっそくHPにいかせていただきました。
とても楽しいHPですねっ!
井上芳雄さん関係のものも隅から隅まで拝見させていただきました。
私にとって井上さんはとても遠い存在ですが、ミュージカル俳優さんとして
も人間的にも尊敬しています。舞台を観る度にそれをいつも感じています。
これからもずっと応援していたい方です。
おこがましいですがいつか1度でもいいから同じ舞台に立ちたいという大き
な大きな夢を持っています(笑)。
森脇さんが井上さんのお父様のご友人と聞いて、このような環境にとても幸
せを感じています。
これからも何卒よろしくお願いします。
 
母と一緒に楽しく写真も拝見させていただきました!
やはりかっこいいですね〜。何度も何度も観て感動していました(笑)。
本当にありがとうございました☆
 
そしてファンクラブに入っているユリナさんのおかげで私はM・京子さん親子と一緒にミュージ
カル「シンデレラ」の良い席を入手することができたのでした。それは7月24日午後1時半の
公演です。
M・京子さん母娘には今回は楽屋裏に芳雄さんを訪ねていくことはたいへん難しいということ
は伝えていたのですが、一応、芳雄さんのお父さんには電話をして様子を聞いてみたとこ
ろ、普段所属している東宝ミュージカルの公演ではないので今回は楽屋裏への訪問は確約
できない、との返事でした。ただ、井上さんも7/24当日、息子のミュージカルを観に来るそう
なので、休憩時間に会う約束がとれました。
このことをユリナさんにメールで伝えたところ、芳雄さんのお父様にお会いできるだけでも最
高です、と喜びの言葉を連ねたメールが戻ってきました。
 
アイドルの父親に会えるだけでもこんなに喜ぶユリナさんの弾む書き込みを読んで私は芳雄
さん本人に会わせられないことが残念で残念でしかたありませんでした。私の敬愛してやま
ないピアノ教師の最愛の娘がこんなに憧れるその相手に、わずか1年前だったらいとも簡単
に引き合わせることができたのに、という無念の思いでした。
 
そしてついに公演の当日がやってきました。
前日の打ち合わせではM・京子さんはレッスンがあるのでシアター・ドラマシティーに着くのは
1時ころになり、ユリナさんは夏休みにも関わらず午前中補修授業があるので公演時間ぎり
ぎりに駆けつけるとのことでした。
私も吹田市で午前中仕事があり、朝の9時過ぎころ、淀川右岸の土手の道を車を走らせて
いたところ、携帯電話の呼び出し音が鳴ったのでした。
私はこのとき直感したのです。ああ、吉報だ!井上さんに違いない!と。
「もしもし、もりわきですが」
「あ、井上です」
やはり井上さんでした。
「昨夜、息子に連絡をとってもりわきくんのことを話したところ、公演終了後是非、楽屋裏に
訪ねていただくようにと息子が言うのです」
「・・・・・」
私は一瞬声が出ませんでした。
やったー!奇跡は起こったぁ!ああ、なんということだろう!嬉しーい!ユリナさ〜ん!M・京
子さ〜ん!やりましたぞー、芳雄さんに会えるんですよ〜
この雄たけびを胸の中で咆哮させながら、私はつとめて冷静に言いました。
「有難うございます。私の顧客母娘がどんなに喜ぶかと思うともう胸がいっぱいになる思いで
す」
井上さんからの電話を切ると次の赤信号で車が止まった時、すぐにM・京子さんに電話して
このことを伝えました。
楽屋裏で会えることを知ったM・京子さんが悲鳴のような声を挙げたことが本当に印象深か
ったです。
「夢のようです!私、今ものすごく興奮しております。ああ、娘が知ったらどんなに喜ぶことで
しょう」
興奮しているのは私も一緒。
「信号が青になりましたからこれで切らせてもらいます」
と電話を切ってから10分ほどしたころでしょうか、携帯電話の呼び出し音がなります。
「もう、お仕事に入られました?」とM・京子さんのお声です。
「いえ、まだです。今渋滞の中にいます」
「そんな中、本当に申し訳ないのですが・・・」
とM・京子さんはいつも気づかわしげに語られます。
それは、娘が芳雄さんに会えることがわかったとき、きっと何かプレゼントをしたいに違いな
いと思うので私はそれを娘に代わって用意したい。それについて何か適切な品をアドバイス
いただけないだろうか、というものでした。
この類のことは私にとっては一番苦手の分野。
「高額の品は避けられたほうが良いのでは」と言うのが精一杯でした。
「プレゼントを選ぶために劇場に着くのが1時過ぎ、いえ、1時20分くらいになるかも知れま
せん」
と必死の面持ちで言われる(と推察される)M・京子さんのお声に、どうぞ、どうぞ、と私は答
えます。
渋滞のために約束時間に遅れそうになりながら、私はこの嬉しい吉報の前に心はルンルン
でした。
午前中の渋滞の影響で私が仕事を終えて車を家に置きに行き、電車で梅田に出てシアタ
ー・ドラマシティーに着いたのは午後1時15分。
M・京子さんはわずか15分でプレゼントの品を選んでこられたようであり、すでにドラマシティ
ーの入り口に待っておられました。
芳雄さんへのプレゼントとして娘に代わってM・京子さんが選ばれた品は快眠を誘う水枕と
中身をシャーベット化できるペットボトルとのこと。
さすが、ご自身ミュージカル役者として舞台に立たれたことがあるだけのプレゼント選択だと
思いました。
 
M・京子さんは芳雄さんに会えることを息子に頼んでユリナさんの携帯電話にメールで知ら
せたとの事。
開演10分前になり、私とM・京子さんだけで中に入ったところ、席は前から5列目の右側。オ
ーケストラボックスが設けられているので実質的には前から3列目でした。
ユリナさんは開演わずか3分前に到着。携帯へのメールを読んだそうで、もう胸がいっぱい
で今でもドキドキしています、と座席に着くなり言葉にならない喜びを表されます。
 
やがてミュージカル「シンデレラ」が始まりましたが、当日購入したパンフレットには舞台上の
情景写真は一枚も載っていませんでしたので画像で紹介ができず、解説も簡略にとどめます。
ミュージカル「シンデレラ」を紹介する気の利いたサイトもありませんが、出演者の簡単な紹介
がされている下記のURLは一応ご参照ください。
 
http://www.rgs680.com/c-story/top.html
 
一言に言って、素晴らしい出来栄えのミュージカルだったと思います。
Eguchi君やM. v. K. さんたちのようにそんなに多くのミュージカルを観ていない私がこん
なことを言うのはおこがましいですが、コメディー風に仕立てられていながら、ときおり感動を
もよおさせられ、ジーンとくるシーンもあり、仕掛けも素晴らしく(特にカボチャの馬車とかガラ
スの靴)、とにかく退屈したりだれてしまうときがほとんど無かったのです。これはM・京子さ
ん親子も同じ感想でした。
あまりにも有名で陳腐なシンデレラ物語がこんなにも興味深く楽しめるものか、と驚く思いで
あり、あの残されたガラスの片方の靴を貧しい身なりのシンデレラがいよいよ履くシーンなん
か観客全員が息を止めて見入っているような気さえしました。
 
出演した役者も皆素晴らしい人ばかりでした。
王子役を演ずる我らが井上芳雄君はもちろん素晴らしかったです。彼の声はすぐに彼とわ
かるような特徴のあるテノールで、歌もモーツアルトのときから比べてもうまくなっているよう
に感じました。着ている鎧をおつきの者たちから脱がされ次々と宮廷服に着せ替えさせられ
て最後にマントを羽織り、くるっと振り向いて階段を上がっていくシーンなんか本当にかっこい
いったらありゃーしない、という感じでして、後でM・京子さん親子にこのシーンのことを話題
にしたとき「本当に絵に描いたような素敵な騎士の姿でしたねぇ。なんてスラリとして足が長
いんだろうと驚きました。浮世離れしていましたよね〜!」と彼女らも言われました。
他の役者で印象深かったのは、下記の人たち。
 
橋本さとし(宮廷大臣役ピエール役) 演技、セリフは抜群。顔の表情が万華鏡のように変わ
              るさまはもう神業のようでした。
池田成志(継母ベラドンナ役) まあよくもここまで憎憎しくふてぶてしく業突く張りの継母役を
             演じることができることよ、とただただ感心しながら演技に見入ったものでした。男
             が演じているとわかっているのにこの母親、もう完全に女のオニババだ、と思わせ
             てくれるところがすごいです。
宮地雅子(上の姉役)、森若香織(下の姉役) 意地悪な二人の姉を演じるのですが、ここま
             でやるか、と思うくらいすさまじく、激しく、下品この上も無いといった感じで、こんな
             パフォーマンスを毎日やっていた日には本来の性格も歪むのでは、と心配になるく
             らい迫真にせまるものでした。彼女らの素顔写真を見たとき、可愛らしく性格良さそ
             うなのにびっくりしました。みんな役者やな〜、とつくづく思わされました。
デーモン小暮閣下(シンデレラの父役・魔法使役・ネズミたちのリーダー役) 父親役のとき
             は全然その人とは気づかず、魔法使役として出てきたとき、聖飢魔IIのデーモン小
             暮に似ているな、と思ったのですが、まさかその当人とは全然知りませんでした。
             テレビや雑誌の画像で受ける印象ではもっと背の高い人かと思っていたのです。
             ロックのヴォーカリストだけあって歌唱力は別格と言うべきほどの迫力と素晴らしさ
             があり、セリフの言い回しもドスが聞いていて存在感が違いました。
 
シンデレラを演じる主演の大塚ちひろについては私は何故この17歳の少女がそんなにもて
はやされるのかが理解できませんでした。それなりに可憐でシンデレラ役を上手にこなして
いるとは思いますが、風貌も特に個性的なわけでもなし、声質も歌唱力も特に印象深いもの
でもない。「1,612人の中から選ばれた」という理由が私にはよく解らないのです。これについ
てはEguchi君にいつか尋ねてみたく思ってます。
 
ミュージカルが終わって私たちはドラマシティーの入り口出たところで井上さんと待ち合わせ
ました。井上さんは四国で大学教員生活を送っていたときの外国人女性の同僚、それに遠
縁にあたる親戚の人たちと一緒でした。
私たち3人を合わせると総勢10人で楽屋裏に向かいました。
楽屋裏に行くには梅田コマ劇場をいったん外へ出て建物をぐるっと回らなければなりませ
ん。明るい日差しの中を歩く皆さんの顔は輝いており、特にM・京子さん親子の表情は上気
しているせいなのか、ことのほか輝いているように見えるのです。
楽屋裏入り口のところには既にファンらしき人たちが集まって待機しており、その前を私たち
は身をかがめるようにして中に入っていきました。
建物内に入り、受付で井上さんが手続きをすます間に私のすぐ後ろに続くユリナさんに「ドキ
ドキするでしょう?」と声をかけると「はい」とうなづくだけでユリナさんもお母様も緊張した面
持ちでした。
 
通路の角を曲がるとすぐに廊下に立っているガウン姿の芳雄さんを見つけました。
10人なんだが、という父親の言葉に「それじゃ個室内はせまいから通路の端っこの方にいき
ましょう」と言って芳雄さんは私たちを案内してくれるのです。
父親の井上さんはご自分の連れは後回しにして、私たちを先に芳雄さんに対させてくれまし
た。時間の余裕が無いことを強く自覚した私は、ミュージカルの感想は言葉少なにとどめ、同
行の女性のことを紹介し、ユリナさんが芳雄さんの熱烈なファンであることを言ってユリナさ
んを前に押し出しました。ユリナさんはもうすっかり上がっているのか言葉が多く出てこず、
持ってきたプレゼントを芳雄さんに渡すのでした。
「うれしいです。有難うございます。後で見させてもらいますね」と芳雄さんはすぐさまお礼の
言葉を述べられました。
私は色紙にサインしてもらうよう促すとお母様が色紙をバッグから出して芳雄さんに手渡し、
サインペンもビニール製の筆記用具から出そうとされるのですが、何と、手がぶるぶる震え
てなかなか出せないのです。
「すみません!私興奮してしまって手が震えて・・・」と焦ったように言われるお母様を見かね
て「お母さん、私がする!」とユリナさんが筆記用具入れを受け取ってサインペンをすぐに出
したのですが、ひと目見るなり、「お母さん、このサインペンはダメ。インクが乾いているの」と
言うのです。書きもしないでなぜそんなことが解るの?と私は不思議に思ったのですが、母
親が娘ののデスクからよりよってインク渇きしたサインペンを持ってきたことをそのペンの特
徴かからユリナさんはすぐに気づいたようなのでした。
私がボールペンを取り出し、これを使うようにと言うと、芳雄さんが「サインペンなら私のとこ
ろにありますから、とってきます」と言うのです。M・京子さん親子はとんでもない、ボールペン
で十分ですから、とあわてて断るのですが、「ボールペンだと細い字になりますから」と芳雄さ
んは有無を言わさず、さっと自分の個室にむかって足早に去っていき、すぐさまサインペンを
手にして戻ってきたのです。
そして大変なれた手つきでユリナさんの名前の漢字を一字一字確認しながら素早く色紙にサ
インし終えたのでした。
 
さあ、次は撮影です。「ユリナさん、すぐに芳雄さんの横に」と私は芳雄さんの横にユリナさん
を押しやり、撮影します。
写真1
 
そして次にお母様の京子さんも一緒に並んでもらい写します。
写真2
 
そして次に井上さんも入ってもらいました。
写真3
 
そして最後に万が一、ユリナさんと芳雄さんのツーショットがピンボケとなっていたらいけないと
思い、もう一度二人だけのを写しました。何しろユリナさんの生涯の思い出となる写真なのです。
失敗は許されません。(ところが念のために撮ったこの最後の写真のみがピンボケとなってお
りました)
最後のツーショットを取り終えた後、私たちはあわただしく井上さん親子にお礼を言い、お別
れの挨拶をして辞去しました。
井上さんとその息子の芳雄さんには本当に感謝いっぱいの思いでした。
 
楽屋の出入り口まで来たとき、M・京子さんは手にしていた色紙を急いで包装紙の中に入れ
るため立ち止まりました。外ではファンたちが大勢待っているのにその面前をこれ見よがし
にサインをもらった色紙を持って歩くのをためらわれたのでしょう。このように奥ゆかしく、常
に控えめな立ち居振る舞いは私が長年お付き合いしていてよく目にするところでした。
 
写真4
私たちはその後、梅田の大衆的居酒屋で打ち上げ会をやりました。当初、私の行きつけの
西宮の寿司屋に行くつもりだったのですが、電車に乗ってわざわざ行くよりもどんな店でもよ
いから早く落ち着いて今日の夢のようなことを語り合いたい、というお二人の気持ちが見て取
られ、実際に口にも出されましたので、私たちよいよい会近畿支部がよく利用する梅田の魚
民にお連れしました。
舞台で見るよりもそばで見る芳雄さんの素晴らしさにお二人は圧倒されたようで、「私ももう
芳雄さんの熱烈なファンになりました」とM・京子さんも言われます。私の家内が芳雄さんと
出会ったとき、頭がボーっとするくらい舞い上がってしまったことを話すと、ものすごい共感を
示されたのです。ユリナさんはもう、感激の度合いがあまりにも大きすぎたのか食欲も無い
そうで、なにやらぼんやりとした表情をしながら私とお母様の会話を聞いているだけです。
お母様の話しによればユリナさんは勉強に疲れたとき、友達との行き違いで辛い思いをした
とき、東宝ミュージカルの「モーツアルト」を聴いて心を慰めるそうです。彼女は東京公演には
行っておりませんから昨年夏の大阪公演以来なのに今も飽きることなく「モーツアルト」のCD
を聴き続けるとは。しかし私には何となく判る気がします。芳雄さんに本当に魅了されると皆
そうなるのだろうと思います。
ユリナさんは高校生ですからもちろんのこと、M・京子さんもアルコールは一切ダメにも関わ
らず、話の種は尽きるところが無く、場は大いに盛り上がり、お開きとなったのは午後10時近
くでした。
私は生ビール一杯に日本酒5合も飲んでしまいながら帰りの電車の中でも眠ることなく、乗り
過ごすこともなく無事帰宅いたしました。よほど気分が良かったのでしょう。
敬愛するご婦人のお嬢さんの夢の実現に立ち会えたという充足感、幸せな気持ちが深酒にも
関わらず、こんなにまで私の精神をしゃんとさせたのだと思います。
最良の日でした。

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