1/13 2004掲載

「麗しのダッカ-U」 渡辺耕士 (Part1はこちら)
 
 正月はクミーラという町のホテルで迎えました。
一応町一番の高級ホテルという触れ込みでしたが、ここでも「お湯」
「エアコン」はなく持っていったセーターを着込んで大晦日の夜を過ごしました。
勿論テレビなんてものは影も形もありません。
日本では紅白歌合戦をやっているだろうなーと思いながらビスケットをかじって
カウントダウンです。
ちなみにホテルは、家内と私のダブルベッドがある部屋(トイレ付き)が
300タカ(約600円)で、倅の部屋はトイレが外にあるため90タカでした。
 元旦の朝、家内が少し下痢気味なので、小生一人で街をぶらつきましたが、
ここも皆さん元気です。
「いらっしゃい!おいしいよ!」(言葉はわかりませんが多分当たっています)の
呼び声に誘われて、屋根が少し傾いた食堂で朝食を注文しました。
野菜餃子をふた回りくらい大きくしたもの2個と紅茶をおいしく頂きました。
締めて10タカ(20円)でダッカ市内の半分くらいの値段です。
3日目くらいになると日本円ではなく、現地の値段で安い、高いと思うように
なるのが不思議です。
 
私には、「元旦をウィーンで迎え、あのウィーンフィルのニューイヤーコンサートの
華麗なワルツを聞き、その後で高級レストランで食事をする」という夢があります。
 この夢と、屋根の傾いた食堂での20円の元旦の朝食・・・人生なかなか思う
ようにいかないものです。
まあ、同じ外国で元旦を迎えたのだから夢が半分かなえられたと思えばいいか。
 高速バスに乗って、乾季で所々にある溜め池が半分干上がっている様子の
田園風景を眺めながら帰ってきました。
雨期(3〜10月)と乾季がはっきりしている地域ですから、我々のイメージする
「洪水で国土の半分が水没する国」というのは今の時期には当てはまりません。
高速バスといっても高速道路はありませんから、片道1車線の道を
抜きつ抜かれつで「高速でぶっ飛ばす」というバスです。
ほんとにスリリングな2時間で、「気合いの運転」を堪能しました。
この国で運転できたら世界中どこでも通用すると断言できます。
 
 元旦の夕方、倅の寮に戻り、「お湯のシャワーがあるホテル」に移動しよう
としましたが、その頃から小生のお腹の調子がおかしくなり、身動きできなく
なりました。
10分おきにトイレに駆け込む始末でとうとう30時間ベッドに釘付けです。
冷たい水で「水洗」しながら暖かいお風呂にゆっくりつかることを夢みました。
こうなったら、ニューイヤコンサートなんかどうなってもいい、高級レストラン
なんかくそくらえだ!
人間最後はホンネが出るようです。
 
そこで一句
 
  クミーラも シャワー冷たし 年の暮れ
 
(選者の言葉)
いいなー海外旅行か。どうせハワイかタヒチでのんびりと過ごすんだろうな。
砂浜で泳いで暖かいシャワーでさっぱりして、その後おいしい食事か。
それに引き替え、こっちは山谷の簡易ホテルのシャワーが最近調子悪くて、
ぬるいお湯しか出なくて風邪を引きそうだよ。
中学校での清掃の仕事からこの成田空港に「異動」を命じられて来てから
3ヶ月か・・「副主任」に昇格だとおだてられて来たけどなんのことはない時給にして
30円上がっただけじゃないか。
今日も空港で楽しそうに家族連れがこれみよがしに「プーケット!プーケット!」
と騒いでいたけど、なにがプーケットだ。
子供の顔を見るとまるでパーケットじゃないか。
 
耕ちゃん、今度は成田でお仕事ですか。年末年始は特に混んでいて
大変だったでしょうね。ご苦労さまです。
しかしあなたが考えるほど海外は楽しいばかりの所でもないそうですよ。
人によっては大変な目に遭って満足にシャワーも使えない人もいると聞きました。
簡易ホテルでぬるいながらもお湯で身体を洗えるだけでいいじゃないですか。
人間どこかで妥協しましょうよ。
 清掃会社「副主任」に昇格しながらも、日常に満足しない男の鬱積した
胸の内を透徹した観察で鋭くえぐった作品ができました。男の暗い情念を
感じさせます。
 名句です。
 
では又・・・
 
 
<追加>
読み返してみてバングラデシュの悪口のようなことばかり書いて
いることに気がつきました、
しかし決してバングラデシュが嫌いになったわけではありません。
我々日本人があまりに快適な生活を享受しているためその格差に
身体も驚いてイェローカードを出したのだと思います。
ODAで日本が一番の援助国であることはこの国でよく知られており、
大の親日国家で、日本人を名乗ると実に親しそうに接してくれます。
我々が全然知らない所でこのような親日国家があることは誇りに思って
いいことだと思います。
日本に対する信頼は、その工業製品の優秀さも大きく影響しています。
街を走っている自動車は90%以上が日本車で、大半は「TOYOTA」
のマークをつけていますし、「SONY」マークは圧倒的です。
宝飾品のプラスチックケース、リュックサックにも「SONY」マークがプリントされ、
高品質の代名詞となっているようです。
ソニーも、人知れず新規事業を目立たない所で展開していることを
知りました。
大変ですね、出井会長!
 
「寒さと下痢」の歓迎を受けましたが、今度は体調を整えてもう一度ダッカの
エネルギーを吸収しに行くぞ!
ビバ!バングラデシュ!  さらば 麗しのダッカ!
 
TopPage