「未完成交響楽」

「サロン便り」2021年版の11月5日付けで紹介したk.mitikoさんの長男のyoshiyuki君が下記の手紙を添
えてベルナルト・ハイティンクの指揮するシューベルトの未完成交響曲のCDを贈ってくれました。


こんにちは。
お知らせしたハイティンクのシューベルト:交響曲7番「未完成」のCDをお届けします。
とりあえず聞いてもらえれば嬉しいです。
お気に召すかどうか判りませんが、私は未完成はこれしか聞きません。
1975年のアナログ録音ですが、当時のフィリップスが持っていた優れた録音技術で
最新のデジタル録音にも負けておらず、未完成のほの暗いロマンとコンセルトヘボウ
大ホールのホールトーンがマッチして最高だと思っています。カップリングの「ザ・グレ
イト」も冒頭のホルンからのめりこんでしまいます。ただの自己満足です(笑い)

未完成交響曲は私の好きな交響曲の一つで、数ある演奏の中でも物心ついた頃から聴き馴染んだブル
ー・ワルター指揮ヴィーンフィルの演奏が耳に染みついているせいか、それ以外の演奏、たとえ同じワル
ター指揮でもアメリカに亡命して以降、録音したニューヨーク・フィルやコロンビア交響楽団なども受け入
れられなかったのです。
ワルター指揮ヴィーンフィルはSP盤で録音の古さはひどいものでしたが、その後復刻盤がCDで出され
たときはかなり改善されており、それを聴いていたのです。


ところがあるとき熱狂的なオーディオマニアの従兄弟の家でジュリーニ指揮シカゴ交響楽団の未完成を
聴いたとき、私は強い衝撃を受け、はじめてワルター&ヴィーンフィル以外の演奏に魅了されたのです。


そんな私ですからyoshiyuki君が熱愛してやまないハイティンクの指揮は如何に?と強い興味を持って
聴いたのです。
するとどうでしょう。
重々しいコントラバスの序奏が始まり、やがて4分の3拍子の弾むようでいてどこかもの悲しさをひそま
せた弦楽器群の旋律が流れ、オーボエとクラリネットが続いて奏でられると鳥肌が立つような感動を覚
えたのです。
何と懐かしい気持ちにさせる奏で方だ、と思ったのです。
これはワルター&ヴィーンフィルの演奏そのものではと思ったのです。

全曲を聴き終えた私はすぐさまYou Tubeでワルター&ヴィーンフィルの演奏を聴いたのです。
ところがどうでしょう、ハイティンクの演奏とは違うのです。
テンポが速い、なにか急いでいる感じ、とこんな風に感じたのです。そんな馬鹿なと思ったのですが、
十数年ぶりに聴いたワルター&ヴィーンフィルの印象は私の中で変わってしまっているのです。
ハイティンク&コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏に耳が馴染んでしまったせいもあるのでしょうが、あれ
ほど愛したワルター&ヴィーンフィルの演奏に戸惑うことに私はショックに近いものを感じました。
それほどハイティンク指揮の未完成に私は魅了されたのです。
そしてジュリーニの演奏を再現すると何と!テンポがハイティンクとほぼ同じなのです。
これも驚きでした。私はこのテンポによる未完成に惹かれるのだということも認識しました。

ハイティンクの演奏を聴いていて、彼の訃報を知ったyoshiyuki君はこの未完成の演奏をどんな思いで
聴いたことだろうと思うと胸が熱くなりました。

ブルー・ワルター指揮 ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=FcEIcqKG7uw&t=39s

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 シカゴ交響楽団
https://www.youtube.com/watch?v=F_4PyyHyXEU

残念なことにハイティンク指揮の未完成はYou Tubeにはありませんでした。
こんな素晴らしい演奏が出てないとは世のクラシックファンの耳は節穴かと言いたくなります。
もっとも人のことを言えません。私だってyoshiyuki君に教えてもらうまでハイティンクの素晴らしさを知ら
なかったのですから。