<<ヨーロッパ歴史ロマン  伊万里焼とハプスブルク>>11/7 2000
 
舩津邦比古です.
昨日の修猷館ラグビー部,口惜しい! ホークスの悲劇の再現だ.なぜ,なぜ?
 
さて,今日の話題です.家内が私たちのエリザベート談義を「いいおじさん達が少女チックね」と笑いながら,資料を提供してくれました.それが今日の話題「伊万里とハプスブルク」です.
 
家内が今年8月のこと,ドイツはデュッセルドルフの町をブラブラ歩いていたら,美術館の前でフト目が止まって,面白そうだと立ち寄ってみたそうです.今年のドイツは日本特集だそうです.入館案内ビラの表紙が次の写真です.
 
 
美術展のタイトルは「女帝マリア・テレジアの宮廷に見られる伊万里焼」
オーストリアで今日でも国母と敬愛されているマリア・テレジアのハプスブルク帝国在位期間は1740-1780年.マリー・アントアネットは彼女の娘です.美術展のタイトルはマリア・テレジアであっても,人気のあるのはミュージカルで一躍有名になった我らのシシイ,エリザベートです.シシイの生きた年代はマリア・テレジアより1世紀後の19世紀ですが,この頃になるとヨーロッパ各国では優れた時期を自前で製造出来る用になりました.
 
 
ヨーロッパ各国は争って窯を創りあげました.大半はいわゆる官窯でしょう.中でもドイツ・ザクセン地方のマイセン窯は,ボーン・チャイナの抜けるような白さ,彩色の美しさ,レースまたはガーゼ様の編み目細工技術(正式には何というのでしょう?)の見事さ等,最高級です(値段も).ハプスブルクはアウガルテンという官窯を持っていました.深みのある明るい緑の彩色が美しい.以下は美術展パンフレットからの抜粋です.
 
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深皿とふた 宝石箱 練乳,菓子等の台 燭台中央部の日本婦人像 絵皿
 
私は焼き物については全く見る目を持たず,この一文を書くために古伊万里,有田焼についてインターネットでほんのちょっとだけ勉強しました.
有田焼入門とも言うべきArita On Lineは http://www.arita.or.jp/
伊万里市大川内山の官窯については http://www2.saganet.ne.jp/masaaki/index.html
 
詳しい資料は上記URLを参照していただくとして,感慨にひたるのは
これらの焼き物が,私が何度か訪れたことのある伊万里川の荷積み岸壁から,地球を半周以上回ってヨーロッパの宮殿に届けられた壮大さと,
洋の東西に共通して為政者は窯によって巨万の富を得,陶工達は苦労と忍耐を強いられたことです.
 
有田焼きの技術は鍋島藩の機密でした.藩はこの門外不出の技術が他藩に漏洩しないように,有田地区の人の出入りを厳しく制限し,焼き物の製造から販売まで厳しい統制の下においていました.伊万里市大川内山には鍋島藩の官窯がありました.ここは上記ホームページの写真に見られるように,背後は登坂不可能な絶壁に遮られた谷の行き止まりです.藩は谷の前面を柵で囲み出入り口には関所を設けて,秀吉の朝鮮出兵時連れてこられた朝鮮の陶工の子孫達を奥行き七,八百メートルの狭い谷に押し込めたのです.
 
所変わってドイツ・ザクセン.18世紀はじめこの土地の支配者は選帝候(注1)アウグスト1世でした(上記Arita On Lineではオーガスタ1世となっている).フランスではルイ14世が老いてまだまだ意気盛んな頃です.アウグスト候は武勇に長け,人は彼をアウグスト強王(注2)と呼びました.彼は錬金術師ベトガーに古伊万里に勝る磁器を創るよう命じました.ベトガーは厳しい監視下におかれ,まるでザクセン候国という檻に捕らわれた囚人でした.磁器が出来ぬ時は首をはねると宣告された彼は20年に及ぶ艱難辛苦を重ねた末,エルベ川のほとりマイセンの地に窯を創り,優雅に仕上げられたマイセン磁器を献上することが出来ました.有田に遅れること100年です.
 
注1 選帝候:神聖ローマ帝国皇帝を選出する権限を有する者.5人いた.3人は世俗の王侯で,2人はカトリック大司教.
注2 強王:強候ではニュアンスが弱いので王と訳した.彼はポーランド国王を兼ねていたから間違いではない.
 
旧東ドイツ,ザクセン州の州都ドレスデン(エルベ河畔にあって北のベニス,芸術の都と賞賛される)と陶工の住む町マイセンについては,機会があれば写真入りで紹介します.
 

<ちょっと横道>
前出マリア・テレジアについては,藤本ひとみの小説「ハプスブルクの宝剣」が痛快で面白い.歴史の勉強にももって来いだし,ただ史実をなぞるだけでなく,掘り下げもある.例えばハプスブルク帝国が他民族多言語国家なので,帝国統一にいかに心血が注がれたか,よく描かれている.主人公はフランクフルト生まれのユダヤ人だが,ユダヤ人がいかに辛苦を堪え忍ばねばならなかったか,たまたま書棚にフランクフルトの古地図があったのでそれを横に置いてこの小説を読んだが,ユダヤ人街の位置など実に正確に生き生きと描かれている.古地図上で主人公がどの小路を歩いているのか,指させるほどである.
 
ストーリーも歯切れ良く進み,舞台はヴィーン,イタリアのフィレンツェ,ベルリンへと展開する.しかし主軸は主人公とマリア・テレジアと夫フランツ・シュテファンの三角関係やハンガリー女との野性的な恋など,女性好み,宝塚好みである.ひょっとして上演されるかもしれない.どうでしょう,宝塚オタクの江口君?
 
ちょっと長くなりましたが,これだけでは森脇君が満足できないでしょうから,最後にもう一つ,シシイ−エリザベート30歳頃の写真です.愛犬の名前はシャドウ(Shadow).ヴィーン王宮(Hofburg)の自室にて.
 
 
もう一つミュージカル・ファンに.北ドイツ・ハンブルクの「オペラ座の怪人」常設劇場です.舞台のセットも幕も場も劇団四季のと全く同じだそうです.つまり世界でヒットする舞台は,どこで食べても同じ味の(だから安心して食べられる)マックのハンバーガーの発想なのですかね?江口君教えてください.
 
 
(続く)

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